「あの高地に人が住んでいるとは、うかつにも知らなかったな」
そうまで言われて、口をつぐんでいるわけにはいかなかった。フィリエルは顔を上げて名のった。
「フィリエル?ディーと申します。セラフ
YOOX 購物ィールドの天文台に住む、ディー博士があたしの父です」
ユーシスの顔にかすかな驚きが浮かんだ。
「ああ、忘れるところだった。それでは、北はずれに建つ塔の住人だったのか」
ロットと呼ばれた若者が、た様子でたずねた。
「天文台だって? ルアルゴーにも天文台があるとは聞いていなかったぞ」
「あるんだよ。というか、話にはあるときいている。『世捨て人の塔』と呼ぶ人のほうが多いが、はずれの高地に建っているんだ」
ユーシスは言い、フィリエルに向きなおった。
「それなら君は、ずいぶんと遠くからここへ来てくれたんだね。今日まで一度もわたしに会ったことがない? 本当に?」
「ええ、本当に」
「おかしいな……」
ユーシスは前髪を指でひっぱった。
「それならどうして、わたしは覚えがあると思ったんだろう」
「なに、考えこむ必要はないさ」
ロットは緑の瞳に光を踊らせた。
「君たちは、目と目を見合わせた瞬間に閃《ひらめ》くものがあったということだよ。つまりだ、一千年前から使い回される永遠のパターンを、今ここで実現してみせたということだ。すごいことだぞ、ユーシス君。二千年前から
YOOX 購物存在する、落としたハンカチを拾うパターンに勝るとも劣らぬ典型例だ。おめでとうと言わせてもらうよ。こんなことを恥ずかしげなくやってのけるのは、君のようなやつにちがいないと、前々から思ってはいたんだ」
「くだらないことばかり、何をさえずっているんだ」
ユーシスが一蹴《いっしゅう》した。ロットの言っていることがさっぱりつかめなかったフィリエルも、かなりのところまで同感だった。
「耳のそばでうるさく言うものだから、思い出せるものまで思い出せなくなったじゃないか。見ろ、喉まで出かかっていたのに、やっぱり思い出せない」
ユーシスはため息をつき、フィリエルに言った。
「何かの思い違いだったのかもしれませんね。これからはもう少し、御婦人の顔かたちに気をつけるようにします。どうも失礼しました」
「いえ……」
フィリエルはつぶやいた。彼がきびすを返して初めて、このまちがいを幸運だと思うことができた。なんといっても、ロウランドの若君と言葉を交わすことができたのだ。彼もこれからしばらくは、セ
YOOX 購物ラフィールドが無人ではないことを覚えているにちがいない。
ユーシスはそのまま立ち去りかけたが、ロットが腕をつかんでひきとめた。